エピソード042 <さあ、君の説明を聞こうか>
今回は、最近読んだ2冊の本から考えたことを書くことにします。どちらも「説明」に関しての本です。毎日誰かに何かの説明をして、たくさんの説明を聞いているはずなのに、「説明」に関してしっかり考えたことがなかったなあ、と思いました。たとえば・・・
これは、弊社で日常的な光景ですが・・・朝、前日まで出張に行っていた部下とオフィスですれ違う時に「○○君、どうだった?いい出張だったかい」と聞きます。すれ違いざまですからこっちが期待しているのは「行ってよかったです。あとで報告します」的なポジティブな「反応」なのですが、彼は何かを思い出そうとする表情を見せ、「まずぅ・・・」と切り出します。今までなぜだか分かりませんでしたが、私にはこれがストレスでした。
まあ、これが会議室でじっくり話を聞こうというなら「まずぅ」もそんなに悪くない(よくもないけど)のですが、朝のカジュアルな会話の中で「まずぅ = 今から時系列で報告します」宣言をされると足を止めなければなりません。その時私はトイレに向かっているときだったりすると「え、今からそれが始まるの?」と戸惑います。が、だからと言って部下の報告は重要です。聞かないわけにはいきません。それにそもそも「どうだった?」と聞いたのは自分なのですからそこから5分10分話を聞かなければならないことになります。これが何とも言えないストレスなんです。でも、自分ながらなぜストレスを感じるのかを言葉で説明することができませんでした。
「一番伝わる説明の順番」(田中耕比古著 フォレスト出版)という本の中で、著者の田中氏は、説明の順番は「自分が説明したい順番ではなく、相手が聞きたい順番で説明をするべき」と言います。「時系列」は、うまく説明できない人や優先順位が決められないときに「致し方なく」使う極めて非効率的な説明方法・・・なるほどね。やっと「まずぅ」がストレスに感じる訳が分かりました。そういえば時系列の説明を聞いているとき「この情報は必要なさそうだけど『時系列』の途中だしなぁ」と我慢して聞いている時間が結構長いですもんね。
でも「相手が聞きたい順番で説明する」って簡単ではありません。相手が複数のこともありますし、初対面で何に重要度を感じておられる相手なのかがつかめていないケースもある。だから、これから誰に説明するかを明確に意識しておくことが必要です。そうすると、その相手に「使ってはいけない言葉」なんかも分かってきます。電池の世界の住民ではない人・・・たとえば金融機関の方とか・・・に何ボルトとか何アンペアとかを駆使して説明しようとする人がいますが、相手がうなずいてくれるのは分かってうなずいているのではなく、あなたの話が終わるのを待っているのです。あなただって金融機関の方に融資基準などを銀行専門用語で説明されても同じ気分でしょう?
だから、説明する前にいろいろ考えなければなりません。いや、結果は説明する前に決まっている・・・というのは「頭のいい人が話す前に考えていること」(安達裕哉著 ダイヤモンド社)からの受け売りです。この本は実に示唆に富んでいて、特に印象に残ったのが・・・
(彼)「好きです。付き合ってください」(彼女)「ごめんなさい」・・・という場合、フラれた原因は99%「告白の仕方」ではなく「告白するまで(の態度や接し方)」にあるのに、フラれた方は「上手な告白の仕方」みたいな本を読んだりする・・・思わず笑っちゃいますが「上手なプレゼンの仕方」や「上手な営業の仕方」みたいな本も結構売れるということを考えると、笑ってばかりもいられません。
それは、まったく同じ説明を二人の別々の人にされても、片方のそれは全然響かないのに、もう片方のそれはスッと心に入っていく・・・ということを考えるとよくわかる、と安達氏は指摘します。人が説明を信じる基準は「何を言うか」ではなく「誰が言うか」であると。そうですよねえ、「あいつの言うことだから3割引で聞かないとなぁ」みたいなヤツは私の周囲にも何人もいますもの。
でも、だとしたら普段の仕事のしかたをきちんとしておかないと、付け焼刃で一生懸命説明しても伝わらない、ということになります。彼女に「ごめんなさい」と言われないようにするのと同様で「普段」が大切なのです。
なんか、「普段がダメならいくら立派な説明をしても説得力が生まれない」という結論になりそうです。なかなか身もフタもない結論になりますが致し方ありません。君の説明の説得力は君の「普段」が生むのです。
このほかこの本では、「話す前に(これから話すことを)きちんと考えているか。結果は話す前に決まっているのだ」のほかに「怒っているときは誰でも頭が悪くなっている」「説明中の沈黙を恐れるな。むしろ思考に集中するために積極的に沈黙しろ」「事実と意見を分けよ」「相手が話しているときに自分が話すことを考えるな。一生懸命聞け」・・・と耳の痛いところを次々に突いてきます。そして前述の田中氏と口裏を合わせたかのように「結論から言え、というのは自分が話したいことを言えというのではない。相手が聞きたいことを最初に言えということだ」とも。
私たちは「仕事」として毎日説明し、説明されています。改めて「今、説明をしている(されている)」と意識することも無いかもしれません。が、こうした“How to 説明”を読んでみると、私自身、説明の手順や作法を蔑ろ(ないがしろ)にしてきたと思わされます。
・・・え、君、私に説明したいことがあるんだって?・・・承知しました。説明を聞く心構えはできています。どんな内容でも絶対怒らないし、君の説明を遮って話し出したりもしません。考えなきゃいけないときは沈黙を怖がらずに一生懸命いっしょに考えて、事実と意見を明確に分けて・・・
さあ、君の説明を聞こうか。でも、君、まさかあの言葉から始めたりしないよね。 (了)
「老いた電池売りの独白」...フューロジック代表・田中景が、日米で40年近く電池の営業をしてきて思う、電池の現在過去未来、営業とは、国際感覚とは、そして経営とは、、を綴った連載です。
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