エピソード039  <MOQ・PSE・EOL・・・>

   会議で、用語の意味が分からないまま議論が進んでいくと不安になりませんか?意味を聞きたくても話の流れを切っちゃうのが失礼だと思ったり、ほかの出席者は知っていそうだから聞きにくかったり・・・特に最近はアルファベット3文字に短縮された用語が必要以上に飛び交って、 これって何の略だろうと思うことがありますよね。

 私は、最近家内がしきりにTKGという言葉を使うので、勇気を出して「それ、何」と聞いたら「タマゴかけご飯」とのこと。後日叱られないために聞いておいてよかったです。

  今号タイトルの3つの略語にピーンときた方は我々と同じ業界人ですね。3つそれぞれに苦労させられています・・・まず、今、電池の仕事で最初にぶち当たる壁がMOQです。Minimum Order Quantityの略で「最小発注数量」という意味ですが、現実はメーカー側が「○○個以下なら販売しません」という意味で使われることが圧倒的に多いので「最小受注数量」と意訳した方がいいかもしれません。 500個しかいらないのにMOQ1000個ですと言われたら、今の電池業界では交渉の余地はほぼありません。いつ使うか分からないけど1000個買わざるを得ない。では50個しかいらない場合はどうするのか・・・ニカド時代は小分け販売する代理店さんがあったものですが、 使い方次第で事故につながるイオン電池には小口販売を堂々とはできず、怪しげなネット販売しかありません。わが電池産業はすっかり小口需要に冷たい業界になってしまいました。

 なんとかMOQを突破すると今度はPSEです。日本でリチウムイオン電池を流通させる場合は(例外も少々ありますが)電気用品安全法に基づいた試験を実施したうえでPSEマークを付けなければいけません。これはProduct Safety Electrical appliances and materialsの頭文字・・・ということのようですが、どうしてもアルファベット3文字に縮めたかったんですね。とはいえ、これは法律ですからちゃんと費用をかけて試験しなければなりません。そんな費用、なんでウチが払わなければならないんだよ・・・というお客様も多いので、営業としては苦労するところです。 
 で、PSEOKになってめでたく量産と思ったら・・・え、EOL?そんな殺生な。EOLEnd Of Lifeの略ですが、英語でよく使う「人生の終わり」ではなく、「生産終了」という意味で使われています。しかし、こいつが一番厄介で、本当に「人生の終わり」に感じられることすらあります。生産終了・・・お客さんは設計変更や安全規格の取り直しが必要で、たくさんの費用と時間がかかる。 なぜキミはこんな製品をわが社に勧めたんだよ。お客さんに叱られてメーカーを恨んだことがある営業は多いはずです。

  というわけで、私どもの業界内では「せっかくMOQラインを下げてもらって量産開始したらセルがEOLになっちゃったよ。またPSEを取り直さないと・・・」で悲劇が十分に通じますが、業界人以外にはチンプンカンプンですね。 相手によっては「最小受注数量を下げてもらってやっと量産にこぎつけたらセルが生産終了になっちゃった。また費用をかけて電安法の試験をやり直してもらわないと」と言わなければ通じません。そのとき、何の略だったかを知らないと言い換えられない。 ボクは業界人以外とはそんな話をしないから・・・と言えるあなたはラッキーです。金融機関の方や、税理士・弁護士の先生と話をするとき、私はお目にかかる前に「言い換え」を考えなくてはなりませんからね。

 ところで、アルファベット3文字と言ったら社名です。なぜそうなのかは分かりませんが、とにかく非常に多い。放送局などはほぼすべてがそうです。
  身近なところでは、電池関連企業ならFDK(富士電気化学)とTDK(東京電気化学)は日本語の頭文字。放送局のNHK(日本放送協会)と同系統ですね。NEC(日本電気・・・Nippon Electric Company)は和洋折衷型で、放送局で言うとTBSTokyo Broadcasting System)と同じ。中国メーカーのATLBYDは社名に想いがこめられていて、前者はAmperex Technology Limited・・・Amperexという単語は辞書にも載っていないのでAmpere X(アンペア エックス・・・無限の電流?)的な造語だと思います。ご存じの方は教えてください。自動車メーカーでもあるBYDは何とBuild Your Dreams・・・「キミの夢を作れ」です。創業者の方の気持ちがあふれていますね。Dreamsが複数形なのもイイ。

  閑話休題。私が中学生の頃のお話です。お医者様の奥様でN夫人と呼ばれた名物女性がおられました。非常に活発な方でPTAの役員を長年務めておられましたが、言葉の意味をよく調べずに熱弁をふるう癖があり・・・
  放課後にPTA総会が予定されていた日、私たちは教室で「本日はクラブ活動休止、全校生徒は速やかに帰宅すること」を命じられました。例外は総会前に父兄にお点前(てまえ)を披露する茶道部の女子生徒数名だけ。私の隣席のD子さんもそのメンバーで、緊張しています。
  英語が専門の私たちの担任は「ところでお前たちはPTAってなんだか知っているか?」と切り出しました。Parent-Teacher AssociationPTの連携ということ。親と教師がいろいろと話し合うことだ。ふーん、なるほどね。
  で、総会前の茶道部のお点前。D子さんの袱紗捌き(ふくささばき)を見ながら役員のN夫人が校長先生にしきりと話しかけます。立派なお点前ですねえ。こういうことができるのもピー、テー、そしてエーの三者の協力によって作り上げた・・・D子さんは笑いがこらえられません。 その後もN夫人が「PTA三者」を連発するのでついにD子さんは爆笑。お点前どころではなくなり涙目で中断してしまいます。
  後日、私たちはD子さんからこの話を聞き、「PTA三者」は校内でちょっとした流行語になりました。するとこれがN夫人の耳にも入り「親は二人いるんだからPTA三者で間違いないべさ(秋田弁)」とおっしゃった由。・・・皆さん、 3文字アルファベットを使うときはおよその意味はつかんでおきましょうね。

 話を戻して、電子デバイスではどうでしょうか。真ん中だけ違うLCDLEDは同じ「表示機器」だから親戚かと思いきやLiquid Crystal Display Light Emitting Diode3文字とも違います。前者が液晶で、後者が発光ダイオード。じゃあ、USBは知っていますか?この言葉を使わない日はないのではないかと思うほどの言葉ですが、意外と知られていないような気がします。Universal Serial Busで、もともとはコンピュータの通信・接続方法のひとつですが、今やコネクタそのものの呼び名のように使いますね。電池業界で使う「USB充電」という言葉も原義からするとちょっとおかしいのかも知れません。
  最後に、もしあなたが電池業界の人間ならOCVDODSOCFETNTCPTC・・・などは日本語だけでなく、何の略かを知っておいた方がいいですね。相手の方のバックグラウンドやその企業さんの専門性を考えて・・・TPOで使い分けてください。  (了)



「老いた電池売りの独白」...フューロジック代表・田中景が、日米で40年近く電池の営業をしてきて思う、電池の現在過去未来、営業とは、国際感覚とは、そして経営とは、、を綴った新連載です。


フューロジック株式会社HPはこちら

I.C.E. ラボサービスサイトはこちら


コメント

このブログの人気の投稿

エピソード037 <電池と巡り合ったころ(前編)>

エピソード029 <ニーハオ、台湾!>

エピソード025 <電池と言語 ~ 展示会で思ったこと>