エピソード029 <ニーハオ、台湾!>

 コロナ禍もようやく下火になり、各国の入国制限も緩和されてきました。さあ、ご無沙汰している台湾の皆さんにお目にかかって、対面で挨拶をして、これからの変わらぬご支援をお願いしなければならない。6月某日、 私は3年半ぶりに台北桃園国際空港に降り立ったのでした。ニーハオ、台湾、久しぶり!!

・・・最初にぶち当たった感覚は円安。先行して台湾に出張した部下からは「何でも高くなりました」とは聞いてはいましたが、 為替レートは2020年1月の公式レート1台湾ドル=3.6374円が、現在は4.6122円。円の価値は27パーセントも下がったのですから当たり前ですよね。私は成田空港で両替をしたのですが、1台湾ドルは5円以上でした。ですから、 この旅では20台湾ドル=100円と考えることにしました。
到着。桃園空港からMRTと呼ばれる電車に乗り、台北駅へ。・・・便利になったものです。昔は台北駅からの交通手段は(スリが多いと悪名高かった)バスが主で、私は当時、分不相応ながらハイヤーで移動していました。今、 MRTは30分ちょっとで台北まで快適に連れて行ってくれます。3年半机の引き出しで眠っていた悠遊(ヨーヨー)カード(台湾のSuica)に残高が残っていたので感覚としてはタダ。快適な電車を降りて蒸し暑い台北中央駅に到着し、外に出ると・・・前回まで、 こっちが恥ずかしくなるほどたくさんあった、卓球の福原愛さんをイメージキャラクターにした家電品の宣伝ポスターが一枚もありません。思いがけない大変化です。そりゃそうだよね、愛ちゃんもこの3年の間に色々あったしね。そんなこと思いつつ初日はホテルにチェックインのみ。

翌日は「新幹線」で台中市に移動。乗車前に買った朝食用の海苔巻きは日本のコンビニとほとんど同じサイズで60ドル。300円かぁ、安くはないよね。
台中では台湾のとある上場企業の幹部と面談。最初の5分で感じたのは「オレの英語、 錆びちゃったなあ・・・」会話のスピードに英単語を掘り返す時間がついて行きません。耳は生きているので「反応」はできるのですが、ストーリーを語れない。まだるっこしいことおびただしい。たかだか3年半でも「放置された鉛電池」のように頭が不活性化してしまっています。それに対して、 コロナ期間中もほぼ毎日欧米のお客さんとWEB会議を重ねてきたという幹部氏の英語はなめらかで、ユーモアもウィットも豊富。これで私と同い年だとおっしゃるのですから脱帽です。
そして、彼らのすすめているビジネスがすごい・・・米中関係の悪化で、欧米では「Made in China」を排除する動きが強まっている。だから彼らはベトナムに新工場を建設し、中国工場の規模を縮小するのだと。で、ベトナム工場は別会社として発足させ、51%を彼らが、残り49%を・・・何と中国企業が出資するのだと言います。中国企業だって米国が「Made in China」にかける追加関税は怖い。払いたくない。だったら中国で作らなければいい。たくましいもんです。これからは中国企業による「Made in 『China以外』」がいろんな形で流通することになるのかもしれません。
でも、中国と台湾の関係も複雑。きな臭いことを言う方もいますよね。こういう国際環境の中、中国企業と手を組むのに不安はなかったのですか?すると「私たちはビジネスパーソン。政治家ではない。 目の前にあるできることをするだけで、過度に悲観的にならないようにしているのです」と。

三日目は台北に戻って、弊社最大の仕入れ先企業の社長と。朝9:00に迎えに行くからというのでロビーで待っていると社長自身がクルマを運転して迎えに来てくれました。いわく、 3年半も会っていなかったのだから話したいことがたくさんある。一秒でも長く話しをしたいから私が来た。特にクルマの中は二人っきり。いろんな話しができる。
・・・で、コロナの間、ビジネスはどうだった?・・・フューロジックは、アテにしていた東京五輪の警備用無線機が無観客開催でゼロ。 きびしかったですよ。・・・売り上げは下がったのか?・・・いえいえ、2020年は危なかったけど、「体温計特需」が起きて期末の数ヶ月で数千万円売り上げられたので助かりました。おたくは?・・・台湾の電池パッカーは軒並みコロナ不況でダメ。A社は潰れたしB社も危ない。 行動制限で実受注が止まったから大手から中堅は見かけの売り上げを上げるためマネーゲームに走るところが多かった。大手のC社は子会社との循環取引で行政処分を受けた。そんな中、 ウチはラッキーだった・・・

・・・ウチは10年以上前からある欧州の医療機器メーカーに人工呼吸器のバッテリー(バックアップ用。停電して呼吸が止まったら大変ですからね)を納めていたのだが、2019年末、 コロナで大打撃を受けた当時のトランプ大統領は「カネはいくらかかってもいいから地球上の人工呼吸器を全部アメリカに持って来い」と演説。数週間前まで「コロナなんてタダのカゼ。マスクなど不要」と言っていたポジションを大転換した。
すると、 それまで少量だが毎月コンスタントに出ていたバッテリーの発注数が激増。最初は倍増、次月は3倍、最終的にはゼロが2つ増えた。ピークは4 ヶ月間に過ぎなかったが創業以来の大増産となり・・・何せ、これだけの増産なのにテレビでトランプさんが「高くてもいい」と言っているので価格交渉はゼロ。 ン百個の想定価格でン万個買ってもらえるのは悪くない・・・ちっぽけな体温計特需の話をしたことを私は後悔しました。
・・・気がつけばちょっとした資金ができていたので、投資をすることにした。中国に人を送って調べたところ、こちらの要望通りの特性の電池を生産してくれる企業があることが分かった。 キチンと数量をコミットしてセルを自社ブランドで開発し、次世代の電池パックを作っていく。もうすぐフューロジックにも紹介する。

私は、同じ質問をぶつけました。今、中国企業と手を組むのに怖さはないのですか?
・・・タナカさん、私にだって何が起きるかは分からない。でも、 分からないから行動しないというのは、私は違うと思う。今、台湾と正式な国交がある国がいくつあるかご存じか?世界にたった13カ国。その多くは、大抵の人がどこにある国なのか知らない国ばかり。中国もアメリカも、もちろん日本とも正式な国交はない。でも、そんなことを気にして「明日、 輸出できなくなるかもしれない」などと考え始めると台湾人は飢えてしまう。今、台湾では鳥インフルで卵が買えない。アメリカ・カナダから1000万個単位で輸入している。今、台湾では小麦が足りない。ウクライナの影響をまともに受けた。パンも麺も値段が倍になった。この費用は台湾人が払わなければならない。 われわれビジネスパーソンは目の前にあるできることをするだけ。稼ぐだけ。
一皿コーヒー別380ドル(1,900円)のランチ定食をごちそうになりながら、私はこんなことを思っていました。台中でも台北でも・・・大きなビジネスの舞台はリスクがあっても中国。 日本の電池のプレゼンスはどこに行ったのだろう。(了)



「老いた電池売りの独白」...フューロジック代表・田中景が、日米で40年近く電池の営業をしてきて思う、電池の現在過去未来、営業とは、国際感覚とは、そして経営とは、、を綴った新連載です。


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