コロナによる「何でも禁止」状態が少し緩み、久しぶりに展示会に出展することができました。東京ビッグサイト「国際二次電池展 <Battery Japan>」です。
展示会は気分が高揚します。今回はどんな人と出会うことができるか、どんなビジネスのヒントを得ることができるか・・・ブースに立ち寄ってくれた方、立っている方とすぐに話ができる展示会は私の性格に合っているのだと思います。
いつもアメリカ時代の話しで恐縮ですが、 英語で話しかけられることが怖くなくなってきたころは、展示会で自社ブースに立てるのがうれしくてワクワクしていました。当時は文字通りBattery Japan(二次電池の世界シェアはほぼ日本の独占状態だった)でしたので、日本人と電池の話しをしたいアメリカ人は大勢いました。とは言え、英語は話せても高度な技術的な質問には答えられないので、日本から技術者に来て貰うこともありました。彼らの説明を、私の通訳で聞いてくれるアメリカ人は真剣で、 こっちも緊張の連続です。知らない単語が出る。訳が詰まる。技術者とアメリカ人両方の「頼むよ」という視線を浴びながら冷や汗をかく・・・ポケトークはおろか電子辞書さえなかった時代ですからスリリングそのものです。打ち合わせ前日は、たとえば「セルに密着したブレーカーが摂氏45度で開き、 それによって充電が止まります」とか、予想される質問に対する説明を英語で練習しました。待てよ、摂氏で言ってもアメリカ人は分からないぞ。摂氏45 度って華氏では何度だったっけ・・・スマホもネットさえありませんから英和辞書のお尻の「摂氏・華氏換算チャート」を使います。当時は自分ながらよくやっているな、 と思って準備していましたが、今考えるとこれぐらいフツーですよね。
でも、私がいなければこの二人の会話は成立しない、と思うのは特別な感覚です。正確に伝えないとビジネスが成り立たない。アメリカ人が質問をする。訳す。私が技術者の説明を聞き終わり、アメリカ人に向き直る。 彼はもどかしそうに私の訳説を待っている。今、国際的なビジネスに関われている。そのとき、私が「コミュニケーションのカギ」を握っていると感じたものです。
話しは変わりますが、私は日本の展示会のあり方はもったいないと思っています。たとえば、 ブースに立っている説明員の方に「ビジネスに結びつけよう」という熱意が伝わってこない場合が多いですね。私は技術担当なので営業に関しては分からない。会社の代表電話から営業に電話してください・・・なんて言われると、あなた、何のためにブース立ちしているの?と言いたくなります。 こういう人はたいてい「あいにく名刺をきらしています」し、なんとも後味が悪くなって、その会社さんに対しての印象もいいものにはなりません。高い出展料を払ってこれではもったいない話しです。
その点、アメリカやEU地域の展示会はもっともっとガツガツしています。何せ国やエリアが広いので、 改めて御社に伺います、ということが難しい。今が千載一遇、すぐに商談に入りたいという気持ちが非常に強いんですね。
もっとすごいのは中国の展示会。一度「広州交易会」を見学する機会がありましたが、 アフリカ系・中東系・インド系と思われる国籍不明の人々が(おそらく)中国語で展示者とガンガン交渉しています。ブースの奥では中国元の現ナマ(おさつ)が積み上げられたりしていてびっくりしました。やはり、ここで、この場でビジネスをまとめてしまおうという雰囲気が強い。 アフリカ・中東・インドに改めて営業に行くのは大変ですからね。
アメリカでも中国でも「実ビジネスに結びつけよう」と出展者も見学者もギラギラしているのに対し、金曜日の午後、行き先ホワイトボードに「ビッグサイト→直帰」と書き殴って、会場でひたすらカタログを集め、誰とも話しもせず名刺交換もせず、 月曜日に紙袋3個分のカタログを会社に持ち込んでフウフウ言いながら、もう達成感に浸っている人、あなたの周りにはいませんか?・・・キミ、まだ何も達成していませんよ!!
・・・先週の国際二次電池展に話しを戻しましょう。ありがたいことに、 今回は弊社ブースにもたくさんの方がお立ち寄りいただき、手応えのあるビジネスのお話もいくつかいただきました。中でも大きなお話は、中国製の大型リチウムイオン電池を複数個使って、動力用電池パックに仕上げるビジネスの開発というものです。
残念ながら、 このようなセル(動力用の大型セル)を日本メーカーはほとんど作っていません。二次電池市場をほぼ独占していたBattery Japanは「今や昔」のお話です。展示会初日、会場内の会議施設でクライアント企業の技術者、中国のセルメーカー、弊社のバイリンガル(日本語/中国語)社員の総勢10人ほどが出席して、このプロジェクトの進め方について会議をしました。クライアントが使いたいセルは要求仕様を満たしているのか? 物量は?スケジュールは? クライアント企業の技術者からは次々と質問が飛び出します。その答えが出ないうちに、質問を補足する追加質問もかぶせるように発言されます。
今回の通訳は二人。流ちょうに日本語を話されるセルメーカーの幹部氏と、弊社の若きバイリンガルです。ところが幹部氏は通訳の役目に徹することができず、 しょっちゅうご自分が話したいことに行ってしまうので、質問にYes/Noで答えなければならないときはウチのバイリンガル君が切り込みます。使えるのか、使えないのか。間に合うのか、合わないのか。Yesか、Noか。 私ももどかしくバイリンガル君の訳説を待ちます・・・
・・・スリリングな国際ビジネスの最前線。私は遠い既視感を感じていました。が、「コミュニケーションのカギ」を握っているのはもう私ではありません。30年経って私は、私の訳説を待たれる側から、 部下の訳説をもどかしく待つ側になっていました。今、電池のビジネスで英語は役に立たないのです。電池は「英語で売るもの」から「中国語で買うもの」になったのです。東京ビッグサイトの巨大な屋根から「Battery Japan」と書かれた大きな幕がダランと垂れ下がっているのを見て、私は小さくため息をついていました。
・・・でも、感傷的になってもしょうがないですね。私どもの使命は日本の「ものづくり」の現場に最適な電池を紹介していくことです。 現実を直視したら日本製の電池に固執することはできない時代になってしまいましたが、貴社が、もし、海外製電池採用に迷っていたら私どもにご相談ください。客観的評価のお手伝いをさせていただく準備はできています(https://icelabo.fulogic.com/)。ものづくりの意欲を「日本製の電池が使えないから」という理由で失って欲しくない・・・展示会が終わって、逆三角形のビッグサイトがゆりかもめの車窓から遠ざかっていくのを見ながら、そんなことを思っていました。 (了)
「老いた電池売りの独白」...フューロジック代表・田中景が、日米で40年近く電池の営業をしてきて思う、電池の現在過去未来、営業とは、国際感覚とは、そして経営とは、、を綴った新連載です。
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