エピソード015  <シュガーコート>

皆様、弊社では毎週月曜日の午後に営業会議をしており、その時間にお電話をいただいてもつながりにくいかもしれません。ご迷惑をおかけしますが、伝言を残してください。必ずコールバックさせていただきます。


で、 今回のお話は・・・・・まだアメリカに赴任したばかりの頃、取引先に招待されてダラスのポールダンスのショウパブに行ったことがあります。テキサス州はアメリカでも美人が多い州とされていて、そのパブでは大柄でスタイルのいいブロンドの白人女性がセクシーなダンスを披露してくれるのです。 私は接待される側だったので料金が高い最前席に座らせていただきましたが、こういうときに見栄っ張りな私は羽目を外して楽しむことができません。目のやり場に困っていると、なんとステージで踊っていた美女が降りてきて私の隣に座ったのです。

Hi, how are you? I like shay guys like yourself ---(あなたのようなシャイな男が好きよ)と言って私の指を握ります。これは後で分かったのですが、このときチップを渡せば別室でプライペートダンスというサービスが受けられたのだそうです。そしてそういうチャンスに巡り会うのは20人ほどの最前列のさらに一人か二人。大ラッキーなんだとか。しかし、 そんなことを知らない私はしどろもどろするばかりで何をどうしていいか分かりません。アテンドしてくれていた取引先の担当者が何か教えてくれているのですが大音量の音楽で聞き取れず・・・すると彼女は私の耳元に唇を寄せて Honey, I will sugar-coat you --- both your heart and --- you know --- ?  作り物のようなブルーの瞳で私をのぞき込みます。冷静に考えればチップの催促なのですが、無粋な私は「シュガーコートってなんだろう」などとまるで方向違いなことを考えています。彼女はつんと顎を突き出してから私の指を離し、ゆっくりと去って行きました。得意先の担当者がOh, no!と両手を広げても私は呆然としていました。シュガーコート・・・かぁ。

シュガーコート・・・本来の意味は苦い薬を飲みやすくするために、甘い材料で丸く固めることで、糖衣錠の「糖衣」のことです。辞書ではそうですが、 アメリカ人の会話には別のいろいろな意味で使われる言葉です。これを覚えたとき、私は少し英語がうまくなったような気がして(一つの言葉だがいろんな場面で使える)会話の中で乱発していました。たとえば、前述のダンサーは私のハートとナニカをシュガーコートしてくれようとしましたが、こんなシュガーコートもあ ります。

アメリカ人の朝食の定番であるシリアルにはシュガーコートされたものがあり、毎日食べるものだけに肥満の原因であると言われています。それを踏まえて次のやりとりを読んでみてください。どちらもシリアルのテレビコマーシャルの会話です。

① 男女の高校生の会話:「君はおデブちゃんだね」「失礼ね。たとえそう思っても少しはシュガーコートするものよ」「ダメダメ、そしたら君はもっと太っちゃうから」『○○のシリアルはシュガーコート無し!』
② 医者と患者の会話:「私はやはりもうあまり長くないのでしょうか」「そんなことはないですよ」「先生、はっきり言ってください。シュガーコートは嫌いです」「まあ、その方が糖尿病にはいいでしょうな」『○○のシリアルはシュガーコート無し! 』

文字通りの「糖衣する」という意味と「言いにくいことを遠回しに言う」という意味のすれ違いのジョークですが、おわかりいただけましたか?

某年、クリスマスが差し迫ったある日、ある企業に商談でお邪魔したとき、 社長さんが部下を大声で叱責されていました。
Give me the real bitter number, no sugar-coat!
(苦くてもいいからリアルな数字を持ってこい。シュガーコートするな!)
私たち(当時の私のアメリカ人上司と私)は社長室に通されたのですが、ちょっとタイミングがずれて、先客である部下の方がまだ叱られているところだったのです。 私たちが来たのを見て社長さんは照れくさそうにしていましたが、私たちと話し始めると、なぜそのように激しく叱っていたのかを説明してくれました。

「良い営業は出かける前に在庫を見て売るべき物を売ってくるが、 出来の悪い営業は無い物の注文をとってきて『在庫があれば売り上げが上がったはず』とか言う。『在庫があれば』『入荷があれば』これだけ数字が上がる・・・そんなシュガーコートされた数字はいらない」・・・ゴモットモです。聞かせたいヤツがたくさんいます。

さらに「シュガーコートされた数字をいじくり回して、現実から目を背けて何になるんですか?一時的に銀行を喜ばすことができるかもしれないが、遠くない将来、彼らを2倍失望させることになる。『在庫が足りない』のも『入荷が遅れる』のも日常のビジネスの一部。 だれにとっても初めての経験ではないでしょう?」・・・ゴモットモx2。

さらにさらに「在庫が足りないなら、仕入れ先に納入をお願いしたのか?その答えはどうだったのか?入荷が期待できれば売上げ予定に入れる。できないなら入れない。 見通しが分からないときもやっぱり入れてはいけない。見通しが分からないまま好い方の数字を持ってきてはいけません。ビジネスでは苦い薬は苦いまま飲まなければならないのです(You have to take the bitter tablet as it is when talking about your business)」

シュガーコート=希望的観測を持ち込んでマネージメントの方向を見失わせてはいけない、ということですね。その場逃れをしてはいけない・・・「おい、シュガーコートすんなよ!」日本ではあまり使われないこの言葉ですが、 私は今でも心の中でこんなふうに叫ぶことがあります。たとえばどんな時か?さあ、どうかなあ・・・でも、多分月曜日の午後に多いような気がします。(了)



老いた電池売りの独白」...フューロジック代表・田中景が、日米で40年近く電池の営業をしてきて思う、電池の現在過去未来、営業とは、国際感覚とは、そして経営とは、、を綴った新連載です。

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