エピソード005 <真偽は定かでないお話>          

なにせ21年もアメリカにいたので、日本ではあまり聞けないこともいろいろ聞きかじってきました。そのなかで「へぇー」と思ったけど真偽を定かにすることができなかったお話を3つ紹介します。繰り返しますが真偽のほどは定かではありません。


① 「キャンベルとスーパーマーケット」

キャンベルは日本のスーパーマーケットでも売られているスープ缶の会社(Campbell Soup Company)です。1869年創業の老舗で現在でも超優良企業です。ただ(この辺が「真偽が定かでない」部分ですが)1970年代ぐらいまで商品管理が恐ろしくいい加減な会社であったようです。

当時、キャンベルは数十種類のスープの缶詰を主にスーパーマーケットに卸していたわけですが、どの缶を何個どの店に出荷するのはキャンベル次第となっていて、スーパー側はいちいち在庫調べなんかしないから、トマト味が欠品してクリーム味が在庫過剰であっても放ったらかし。すなわち、キャンベル側は作ったスープ缶を片っ端から出荷すればいいので、在庫など持たなくていいのです。今回はコンソメ味を作りすぎたなあ・・・と言うことがあってもどこかに出荷してしまう。70年代まではこれでよかったらしいのです。力関係で言うと圧倒的にキャンベルの方が強かった。

ゲームを変えたのはバーコードでした。スーパー側は「レジ打ち」をなくしたい・・・人件費削減はいつも進化の出発点で、社会的コンセンサスも得やすい。あらゆるものにバーコードがつくようになり、当然キャンベルも全製品にバーコードをつける。するとこれまた当然ながらスーパーの各店舗では何味が何個売れたかの記録が残ります。この記録が発注に反映されるようになると、何味を何個出荷するのかはスーパー側の注文によるようになります。キャンベルの思うようには行かなくなりました。今までは今月はチキンスープを○万個ぶっ続けで作り、来月はマカロニスープを・・・ではなくきちんと需要予測しなければならなくなった。

特定の商品に注文が入らなければ在庫になってしまう。消費期限までに売れなかったら廃棄のリスクもある。そのうちPOS(Point Of Sales)システムやクレジットカード決済が広まって、スーパー側にはいつどこでどういう商品がどういう人に・・・その日の天気や気温なども取り込んで・・・売れるのかのデータが積み上がっていきます。スーパーがキャンベルの言うことを聞く必要などなくなったのです。

キャンベルはこの危機をいろいろなイノベーションを駆使して乗り越え、現在でも世界有数の食品メーカーです。が、バーコード導入直後に的確な対策をとっていなかったらどうなっていたか分らない・・・ゲームチェンジの時の教訓としてしばしばアメリカで語られるエピソードです。あなたの仕事の業界にゲームチェンジの兆しはありませんか?


② 「右からABC」

日米貿易摩擦の頃、私はアメリカに住んでいました。アメリカ人たちはテレビカメラの前で東芝のパソコンをたたきつけ、日産のピックアップトラックを壊して溜飲を下げていました。われわれ在住日本人は日本食飲み屋でそれを見ながら「あ、また一台売れる」とこっそり拍手していましたが・・・アメリカ人にとってはアメリカ発の技術であるPCやクルマで日本だけが稼ぐのが面白くない。

今、私たちが二次電池 液晶 半導体で中国韓国に抱く感情に似ています。当時仲良くしていたニューヨーク地域のセールスレップのおじさんは、日本製品を扱っているので貿易摩擦に関して表立っては何も言いませんでしたが、私と二人きりになると先進国のアメリカ人として私に何かを教えようとする人でした。Akira, do you know what IBM stands for? The answer is “International Business Machines”. (IBMって社名の語源を知っているかい?インターナショナル ビジネス マシーンズの頭文字なんだぜ)という感じ。

あるとき私の会社でカンパニーカーを購入することになり、納車の日にたまたまこのおじさんが来ていました。クルマはフォードのマスタング・・・安かったから。するとこのおじさんの機嫌がみるみるよくなり、私に向かってアメリカ車の優秀さや、世界で始めて自動車の量産化をしたフォードに対しての知見をエンエンと語り始めたのでした。すると納車に来ていたディーラーのお兄さんがおじさんに「物知りですね。フォードが好きですか?」と。

おじさんは喜色満面に「もちろんさ。アメリカ人ならそのぐらい知っているだろ」と。お兄さんは「なら、クイズを一つ。フォードが量産車を作ったときに、今のペダルの並び順を決めたんだけど、どうしてそうなったか知っていますか?」するとおじさんThat is an interesting question. That must be very much based upon the human engineering, but I am not quite sure. Can you please let me, and my Japanese friend know? (非常に面白い質問だね。大いに人間工学的に考えられたものだろうけど、よくわからないので私と私の日本人の友人にぜひ教えてください)と先進国アメリカ目線で私をチラ見しながらニコニコ。

するとディーラーのお兄さんはウィンクしながら「・・・右からABC」。そこには人間工学も何もなく、単純に右からアルファベット順にアクセル・ブレーキ・クラッチにしただけで、それが100年以上続いているんですって。このときおじさんは最初口をぽかんと開けて、続いて私の肩をたたいて大笑いしたものです。


③ 「売上目標を下回ったことがない」

三洋電機のアメリカ現地法人Sanyo Energy USAはGeneral Electric(GE)と合弁でGE-Sanyoというブランドを作り、電池関連商品を販売した時期があります。Sanyo Energyは私の勤務していた会社の取引先だったので、1990年ごろラスベガスでGE-Sanyoのスタートメンバーと食事をさせていただくことがありました。で、GEからこのプロジェクトに参画してきたエグゼクティブは電球を全世界にビリオン(十億個)単位で販売し「入社以来○十年、売り上げ目標を下回ったことがない」という傑物とのこと。一同「ホウッ」と小さな歓声を上げます。電球だけにGE-Sanyoプロジェクトの未来は明るい、などという冗談も。

食事が終わって傑物氏が隣の席に来たので、当時30代の若手駐在員だった私は意気込んで「どのようにして長年目標到達を続けてこられたんですか」とストレートに聞きました。「もちろん、それは簡単なことではない。だれにとっても」と傑物氏。「ヒントとなることはありませんか?」と私。すると「君は秘密を守れるかい?」「もちろんです」「では・・・僕は工場に友達がいてね、予算達成が難しそうになったら彼を呼んで一杯おごるのさ」「・・・」「すると彼は次の日から・・・」「次の日から?」「フィラメントをちょっとだけ細くするんだよ」LED時代の現代ではなかなか理解できない人もいるでしょうが、ともかく、この話も真偽のほどは定かでありません。(了)



「老いた電池売りの独白」...フューロジック代表・田中景が、日米で40年近く電池の営業をしてきて思う、電池の現在過去未来、営業とは、国際感覚とは、そして経営とは、、を綴った新連載です。

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