投稿

3月, 2025の投稿を表示しています

エピソード058 <河川敷のグラウンド>

 イチロー、松井秀喜、大谷翔平、吉田正尚・・・以上は日米両方のプロ野球で活躍した(している)日本人の野手の一部です。彼ら全員に共通する身体機能的な特徴があるのですが、お分かりになりますか?  答えは「右投げ左打ち」・・・右手で投げるけど左打席に入って(つまり右肩を投手に向ける)打つ。人間、右利きの場合は右手主導の方が動きやすいので、普通にしていればほとんどが自然に「右投げ右打ち」に育ってしまうものですが、今までメジャーリーグに行った日本人野手18人のうちなんと11人が「右投げ左打ち」(※1)。日本人の「左利き率」は約1割といわれているので、これだけ多くの選手がすべて「右投げ左打ち」であることは、おそらく偶然ではありません。少年期に、おそらく自分(あるいは指導者)の意思で故意に左打ちにしたのだと思います。それはなぜなのでしょうか。  野球は、面白く不公平なスポーツで、右投げなら9つのポジションすべてが問題なく守れますが、左投げだと捕手・二塁・三塁・遊撃の4つのポジションは、原則守ることができません(※2)。つまり右投げの選手の方がレギュラーポジションを獲得しやすいのです。ですから「投げる」方に関しては持って生まれた右投げを修正する必要はありません。  しかし「打つ」方は左打ちの方がいろんな理由で断然有利。まず、投手は右投げが多いので、左打席からだと右投手のボールの軌道がよく見えます。また、右打席よりも一塁までの距離が一歩半近いし、スイングした後自然に体が一塁に向くので、走りながら打つ(イチローが得意でした)こともできます。つまり「右投げ左打ち」であれば攻守両方でアドバンテージがあるのです。  思えば、私が子供のころは「右投げ左打ち」の選手はジャイアンツの森昌彦ぐらいで、非常に珍しい存在でした。大打者を例にとると長嶋茂雄も野村克也も「右投げ右打ち」、王貞治や張本勲は「左投げ左打ち」です。近年、急に「右投げ左打ち」が増殖した理由として考えられるのは、 2001年からメジャーで大活躍したイチローの影響でしょう。当時のイチローの圧倒的な活躍ぶりを見ていたら、自分も左打ちに変えてあの舞台に行きたい・・・と考える野球少年が、2000年代前半、日本中にいたことは想像に難くありません。その頃に少年期を送ったのが大谷翔平であり、吉田正尚なのです。  ところが今、日本のプロ野球では左打ち...

エピソード057 <新大久保のダンディ>

 皆さんはビリヤードのスリークッションという競技をご存じでしょうか。穴ぼこ(ポケット)に球を落とすゲームではなく、ポケットの無いテーブル上でボール3個でするゲームです。今でも韓国などではメジャーですが、ルールが非常に複雑なせいか日本では競技人口が少なくなってしまいました。でも私は中学生の頃から大好きで、高校時代からビリヤード場に入り浸って・・・ご想像通り、あまりいい学生ではありませんでした。  しかし、20年以上暮らしたアメリカではポケットばかりで(映画「ハスラー」もポケットですし)スリークッションのテーブルはほとんどありませんでした。だから15年前、アメリカから帰国した私が住居と仕事の拠点を確保して、次にしたのがスリークッションができるビリヤード探しでした。ネットで調べたところ、新大久保に元世界チャンピオンが経営しているビリヤードがあり、私も名前だけは知っていたので、さっそく出かけてみました。久しぶりのスリークッション、私はワクワクしていたのですが・・・そこにいたのは常連さんばかり、私のような見ず知らずの男と遊んでくれる人はいなくて、私は所在なく見学席で人のゲームを見ていました。もう帰ろうか、と思っていたところに・・・  「お、見ない顔だね。初めて?」 突然、背後から男性としては高い声で呼びかけられました。振り向くと60がらみでツイードのジャケットを着た白髪交じりのダンディがニコニコしています。  「いえ、初心者ではないのですが20年以上やっていないんです」  「へえ、じゃ、海外赴任でしょう。どこ?」  「アメリカのニュージャージーです。・・・え、海外赴任だって分かりますか?」  「オレももとは商社だからね。で、相手がいないんだろう?オレがつきあうよ」  この人が浅野さん・・・通称「アサヤン」でした。3ゲームほど終えると冗談が言い合えるようになっていました。そして「じゃあ、まだこの辺の店、全然知らないんだろう?教えてあげるからつきあいなよ」と、ビリヤード裏手の薄暗い地下の居酒屋に。並んでカウンター席に座ると、アサヤンはいきなり私をびっくりさせたのです。  「田中ちゃん、オレね、もうすぐ死ぬの。ガンなの。だからおそらく田中ちゃんが人生最後の友達」  「え、本当ですか?・・・またぁ、からかっちゃイヤですよ」  「本当なの。冗談だったらいいんだけど、まだ64だからね。で...